尊厳死について

近年「尊厳死」という言葉をよく耳にするようになりました。

誰でも人生の最期は、出来る限り自分の望むべきものであってほしいものですよね。

死は誰にでも訪れるもので、最後の瞬間を希望する形で迎えるのは難しい事ですが、人生の最期に備える考えは後ろ向きではなく、むしろ前向きな行動といえるでしょう。

その選択肢として近年話題となっている「尊厳死」についてお話ししたいと思います。

【尊厳死と安楽死の違い】

尊厳死と安楽死は似た意味で使われる事が多く混同しがちですが、異なる意味をもっています。

・安楽死

安楽死は、もはや回復の見込みを望めなくなった場合に、ケガや病気の苦痛から解放されるために「安らかな死を選ぶ」ことを言います。

その際には、死を早める為に人為的な医療処置を行うこともあります。

しかし、実際のところ安楽死はほとんどの国で認められておらず、日本においても安楽死は法律的に認められていません。

・尊厳死

尊厳死とは、人としての尊厳を保ったまま迎える死の事を言い、「自然な人の死」を指す言葉であるとされています。

近年では、医術の進歩から危険な状態であっても延命治療をする事で少しでも長く生きられる時代となりました。

しかし、誰しもが延命治療を希望する訳ではなく、その後の人生を自分らしく生きていきたいという考えから治療を希望しない場合もあります。

あくまで自然に尽きる寿命を変えず、残りの人生を自分らしく生きる選択という意味が尊厳死にはあります。

 

【日本で尊厳死は認められる?】

尊厳死という考えは日本ではまだ一般的であるとは言えず、法律上では尊厳死は認められていないのが現状です。

しかし、考え方自体が少しずつ受け入れられ、周りの人にも理解してもらえる傾向になってきていると言えます。

先進国でも尊厳死は認められる傾向にあり、欧米では尊厳死を法律に組み込む国が多く存在し、実際の裁判でも「尊厳をもって死ぬ権利」が認められた例もあります。

終末期医療において、医師が延命治療を中止する際の手続きを示したガイドラインが既に存在しており、厚生省が2007年に発効した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」では、本人・家族・医師の三者による議論と合意があれば、治療の中止を含めた判断を行えると明示されています。

更に、2014年には日本緊急医学会や全日本病院協会がより具体的に中止できる延命治療を提案したことも話題となりました。

それによって「胃ろうの中止」「心静脈栄養法など点滴の停止」「人工透析の中止」「人工呼吸器を外す」「抗がん剤の投与中止」の5つが医療現場において尊厳死が事実上容認された状態となっています。

しかし、それを担保する法律が存在しない事から、医師が殺人罪等で訴えられてしまうリスクがある為、判断をする事が厳しいのが現状です。

医療技術が進歩した現在では、末期がんなどの回復に見込みがない病であっても「延命」という形で患者を生きる事が可能となります。

これについては考えが様々で、確かに延命治療を続ける限りは肉体は生命を維持する事が可能となりますが、こうした延命治療は経済的な負担だけでなく精神的にも重い負担となる可能性があることから、尊厳死を希望する方が増えています。

 

【尊厳死の問題点について】

・法律的な問題

日本では法律上尊厳死を認めていない為、周到な手続きを踏んだとしても医師が訴えられるなどのリスクをゼロにすることが難しいのが現状です。

ガイドライン上でも、中止することが可能となる延命治療の種類には限りがある為、それに当てはまらない場合は延命治療を中止する事は難しいでしょう。

・倫理的な問題

法律の他にも尊厳死には倫理的な問題で意見が大きく分かれます。

「死によって解決出来る事なのか」「続いていくはずの命を絶つことによる解決は正しいのか」などの問いの回答は難しいものです。

ご本人が尊厳死を希望していて、考え抜いた末にの決断だったとしても、本当にこれでよかったのかと遺された家族を悩ませ続ける可能性も考えられます。